縦書き by 涅槃 『鳩ヶ谷博物誌』へ 『郷土はとがや』 第54号 平成16年11月18日
鳩ヶ谷の生物1
カラスはほんとに悪者か
カラスにも言いたいことがある
藤波不二雄
カラスは古来より忌み嫌われているが、スズメやツバメ同様大変身近な野鳥の一つである。他の鳥と比べカラスは黒い体のため、また声が綺麗でないこと、あるいは動物の死体に群れて食べたりする習性から良くないイメージがあります。そのために、民話などでは他の鳥をだましたりする悪者として登場します。
また、古くからの言い伝えでも「カラスが鳴くと人が死ぬ」「カラスの鳴き声が変わったので悪いことがおきる」など、縁起の悪い兆候を伝える鳥として扱われています。
逆に古事記では、時の天皇が熊野に行幸されたとき、夢のお告げで「天より八咫烏を遣わしむ」のとおり、大きなカラスが現れて道案内をしたと伝えています。これらのことから熊野三山ではカラスを神の使いとして護符の絵柄に使われています。
カラスの種類
地球上には、約九千種類もの鳥類が生息しています。この内の約半分の五千種類近くがスズメ目といわれるスズメの仲間に属します。この中にカラスの仲間のカラス科も含まれており、カラス科には約百種類がいます。カラス科の鳥は鳥類の中で最も進化した種類と言われています。
日本で記録されたことのある鳥類は公認・未公認記録を含め約六百種類、そのうちカラス科の鳥は十種類。この中にはオナガやカケスのように綺麗な鳥と体の色が黒い俗に言うカラスが含まれています。しかし、「カラス」という和名の鳥はいません。「カラス」は、シラサギやハトと同じように特定の仲間を表す呼称です。
黒を基調とした一般にカラスと呼ばれているのはカラス属の鳥で、ハシボソガラス、ハシブトガラス、ミヤマガラス、コクマルガラス、ワタリガラスと言った種類のカラスがいます。このようにカラスと言ってもいろいろなカラスがいるわけです。
しかし、我々が普通に見ることが出来るカラスは、ハシブトガラスとハシボソガラスの二種類です。これらのカラスは、人が生活している街とその周辺や農村などで生息しているため、人との軋轢が生じて、しばしば問題になるのも主にこの二種類です。カラスは都市開発に伴い自然環境が著しく破壊された現在、ワシやタカなどの猛禽類に代わって都市の生態系の頂点にいます。
ハシボソガラスとハシブトガラスの見分け方
両種は大きさも殆ど同じくらいで、色も黒色で形もよく似ているので、一口にカラスとひとくくりされてしまうことがよくあります。しかし、この二種は住んでいる環境も習性も異なります(採餌場所では一緒にいることもある)。そのため、カラスの問題を考える時、あるいは対策を考えるとき、ハシボソガラスなのかハシブトガラスなのか、その種類によって対応が全く違ってくる場合が少なくありません。
ハシボソガラスとハシブトガラスの見分け方
写真① ハシブトガラス 写真② ハシボソガラス
この二種は大きさ、形、色がよく似ているので野外での識別には多少のこつが必要である。ハシブトガラス(写真①)は名前の通り嘴が太く、ハシボソガラス(写真②)では細いという違いがあります。もう一つの違いは額の出っ張り方の違いです。ハシブトガラスの額はヘルメットをかぶったように「おでこ」が出っ張っていますが、ハシボソガラスの額はなだらかで細い顔つきをしています。従って、留まっている時は頭の形と嘴を見れば、両種の違いが解ります。もう一つの違いは鳴き声です。ハシブトガラスは「カアカア」、ハシボソガラスは「ガア、ガア」と濁った声で鳴きます。ただし、ハシボソガラスは澄んだ声で鳴くことはありませんがハシブトガラスは時により、例えば威嚇する時などは濁って聞こえることもあります。また、鳥をよく観察している人であれば飛んでいる形でも識別することが可能です。ハシブトガラスは大きく尾が長めで「シャモジ型」に見え、ハシボソガラスの尾は短めで先が「バチ型」に見えます。また、ハシブトガラスが悠々と羽ばたいて飛んでいくのに比べ、ハシボソガラスの飛び方は羽ばたきが浅くバタバタした感じに見えます。
分布と生息地
ハシブトガラスとハシボソガラスを地球的な観点から見ると、世界的な分布はハシボソガラスの方が遙かに広く、ユーラシア大陸の北は北極圏から中近東、アフリカ北部、西はスペイン、東は極東地域に生息しており、北に分布しているものは冬になると渡るものもいる。一方のハシブトガラスはインドから日本までのアジア南部から東部にかけての比較的狭い地域に分布しています。また、海を越えて渡りをするような大規模な渡りはしないと言われています。
日本国内の分布は、繁殖期も越冬期も二種類の分布の地域による大きな違いはない。東京都や埼玉県での分布を見るとハシブトガラスは市街地の中心部から山地まで広く分布しているが、ハシボソガラスは畑地や水田などの平地に多く生息している傾向があります。
「カラスなぜ鳴くのカラスは山へ」と歌われているようなカラスが帰る山の林は開発され、都市周辺からなくなってしまった。行き先を失ったカラスは、都市にあるまとまった緑「都市公園など」を第二の故郷としたのである。人に追われて、人の住む町で、人と共に生活する、という皮肉な結果となったのです。
鳩ヶ谷市内でも一九九四年頃までは市内で見られるカラスはハシボソガラスが殆どであったが、一九九五年以降はハシブトガラスが多くなっています。特に生ゴミの収集日にはハシブトガラスの個体数の増加が目立ちます。
ハシブトガラスは英名は Jungle Crow と呼ばれています。森林性のカラスという意味で、ハシブトガラスは森林性のカラス、ハシボソガラス Carrion Crow(死肉をあさる)は開けた環境に住むカラスといえる。
カラスの繁殖
鳩ヶ谷市内で繁殖するするカラスは殆どがハシボソガラスで、市内にかろうじて残っている屋敷林の高木で繁殖しています。表―1に示したように、主にエノキやサクラの木に営巣しています。変わったところでは、協和銀行跡地のマンション建設現
場に設置されていた大型クレーン車の先端近くに営巣(二〇〇三年)したこともあります。この時は途中で作業員に巣を破壊され繁殖には至りませんでした。巣の位置は樹木の場合、幹から出る枝の付け根から枝の中間部分に乗せるように作り、葉が茂った枝が巣を覆うような所を好みます。
巣は厚い皿形で、大きさはバラバラですが、おおむね五十センチ~八十センチ、厚さは三十センチ程度になります。巣は小枝を集めて造られますが、近年は針金性のハンガー(真③)や包装用のビニールひもなども使われることもあります。巣の底には産座と呼ばれるところがあり、そこには葉の着いた小枝や小鳥の羽毛、布などの柔らかい材料が敷かれています。
写真③ 針金ハンガーなどを利用した巣
卵の色はくすんだ緑色を帯びた褐色の地に褐色の斑点模様があります。一度に生む卵の数は三~五個で、童謡で歌われているような「可愛い七つの子」は通常見ることはない。
巣作りは雄雌共同作業で行われ、雄が巣材を運び、雌が細かい作業をするような役割分担があるようです。
通常、雌が卵を温め、十八~二十日で雛が孵化します。生まれたばかりの雛は赤裸で目は開いていません。雄と雌が交代で餌を運び雛を育てます。雛が巣立つまでには三十日~三十五日かかり雛が巣にいる間、親鳥は餌を運び続けます。カラスとはいえ、とても愛情細やかに子育てをしており人間も見習うところがありそうです。このような愛情の細やかさが、カラスが人間を襲うことにつながっています。人がカラスに襲われるという場合、その殆どが繁殖期であり、子育て中のカラスの巣の近くを人が通る時に、親鳥が警戒して人を襲ってくるのだと考えられています。カラスの繁殖は普通、年一回ですが早い時期に繁殖に失敗したときなどは、もう一度やり直すこともあります。
無事に巣立った後は、親よりも大きくみえる若鳥が、屋根の上やアンテナ、電線などに留まって親から餌をもらっている姿が見られます。この頃は餌を求めてガアガアと頻繁に鳴く声が騒がしく、いやがられて苦情の対象にもなっています。巣立って間もなくは家族単位で巣の近くにいることが多く、一~二週間程巣の周りで過ごしています。
鳩ヶ谷市内では、おおむね四月始め頃から巣材運びが見られ、卵や雛を育てる時期は四月~六月初めくらいまで。 巣立った雛が電線などで親から餌をもらっている姿を見かけるのは六~七月です。それ以降は群れを作って行動し、おそらくグリーンセンターの林の塒に集まっているものと思われる。
塒とは
多くの野鳥にとって繁殖期の巣とそれ以外の時期の眠る場所は異なります。巣は卵を産み、雛を育てるだけの所。巣立ってしまえば巣は使われません。そのため、通常夜を過ごす場所は塒と呼ばれ、ハシブトガラスやハシボソガラス、あるいはムクドリなどが集団で塒をとる鳥として有名です。
この塒も季節によって、夏塒、秋塒および冬塒と呼ばれ、中でも大きい塒は冬塒です。東京近辺の塒に集まるカラスの個体数は三万羽以上と言われています。
埼玉県では最大の塒が仁座市の平林寺の林にあり、年によっては一万羽を越えることもあるようです。
鳩ヶ谷市に一番近い塒は、グリーンセンターの林と近くの雑木林の二カ所で両方合計しても約三千羽ほどです(図―1)。
塒に集まるカラスは夕方、その日の天候にもよりますが、冬は三時頃から塒のある林の周辺に集まり始めます。送電線や鉄
図-1 グリーンセンターの塒に集まるカラスの個体数
塔、あるいは高層建築物や高木などに留まり、送電線に留まっているカラスの中には、逆立ち宙返りなどをして遊んでいる?ものもいます。時間が経ってあたりが暗くなる頃一斉に塒入りしますが、真っ暗になるまでは出たり入ったりして鳴き騒いでいることが多い。この鳴き交わしの行動が学者によっては、情報交換「今日は何処何処にうまい餌があった」とか「あそこの場所は危険だとか」その日の状況を話し合っているのだと言う人もいます。
カラスがゴミを散らかしてしまう/対策は?
生ゴミの収集日にカラスが集団で集まりゴミを散らかして汚く、
④カラスいけいけゴミ ⑤ブロックで囲い網を掛けた
収集カゴ(折りたたみ式) 収納タイプ
⑥網をかぶせたゴミ袋と外に出ているゴミ袋
不衛生であると一〇年以上も前から言われるようになりました。各自治体ではいろいろな対策をとっていますが良い解決方法はありません。問題はカラスが異常に増加したことにありますが、増加の原因を作ったのは人間が出す日常の生ゴミ量の多さとゴミの出し方に問題が有ります。
カラスにとって生ゴミは御馳走。ゴミの減量と出し方でカラスの被害を減らすことができます。食べるものがないとわかればカラスはそこからいなくなるのです。
トからはみ出さないようにする。生ゴミをなるべく減らす努力をする事は食べ物の無駄を省くだけでなく、家計費の負担減にもつながります。
例えば、ゴミは収集時間に会わせて出す/ビニール袋はきちんと封をする/カラスは目が良いので生ゴミが見えないように袋の奥に入れるなど工夫する/ゴミ袋はネッ また、ゴミを出すときに覆いがあるかないかでカラスの被害はかなり減少します。
写真④はメッシュが細かく覆いがあるため完璧。写真⑤は三方をブロックで囲まれているが網の目が大きいので、嘴で突いて生ゴミを取り出してしまう。
写真⑥は網袋がゴミとぴったり接触しているが、編み目が細かいために生ゴミを取り出しにくい。しかし、外に出ているゴミ袋のように何の対策もされていない場合は、カラスに突かれてゴミが散乱する。
カラスは猛禽だ/そして、自然の掃除やさんだ
都市化が進み高層マンションが建ち並び、道路がアスファルト化されたことに伴い、畑や水田、雑木林など昔ながらの原風景が極端に減少した昨今、生態系の頂点にいたタカやフクロウなどが街の周辺から姿を消してしまった。その位置に取って代わったのはカラスと野良猫、そして、いずれも増やしたのは人間である。カラスは勝手に増えたわけではないのです。いなくなったタカやフクロウなどが生活していける豊かな自然と共存できる街をつくり、人間の生活を見直さない限り人とカラスが共存できる生息数にまで戻すことは難しいことです。繁殖中のカラスの巣を壊したり、どこかの塒からカラスの群を追い出しても、カラスがいなくなるわけではない。塒の場所を移動するだけです。ゴミを荒らす、あるいは人を襲う。一方では死んだ魚(写真⑦)や猫あるいは弱っているカモ(写真⑧)や小鳥なども襲って食べる。生態系の中ではトビやカモメなどと同じように掃除やさんもかねている。私たちはカラスにも良いところがあることを知る必要があるのです。
⑦死んだ魚を食べる ⑧弱ったコガモを襲って食べる
ハシブトガラス ハシブトガラス
カラスは賢い
ある主婦が自転車に乗ってスーパーマーケットに買い物に出かけ、いつものように買い物をして、ミンチ肉や魚などを透明な袋に入れたまま自転車の荷台においておきました。そして、マーケットの前にある豆腐屋さんで豆腐を買って戻ってくると、自転車の荷台にカラスが一羽止まっていました。そして、しきりに袋を突いていました。主婦はこら何をしているの、その肉は私たちの今夜の夕食にするのよ、といいながらカラスに近づきました。カラスは下舐めずりでもするかのように、嘴をぬぐう仕草をして飛んで行きました。テレビ番組で「都会のカラス」についての放映を見た折に、半透明なゴミ袋に生ものを入れておくとカラスが見つけやすいということを思い出し、あの放映は事実なのね、カラスって凄く賢いですね、と話していました。ウソのような本当の話、カラスが狙うのはゴミ袋だけでなく、白昼堂々と買い物袋も狙うようです。